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一度踏み入ったら出口の全く見えない音楽の深い森。森の中を彷徨い歩く内に出会った神々と妖精たちのお話です。

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歌行燈
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この写真は、1910年頃、東海道53次43番目の宿場町「桑名」の港を撮影した貴重なものです。なんとなく未だ江戸時代の雰囲気が漂っていませんか。


この暑かった夏の想い出の一つとして、海辺のお土産物屋さんや磯辺などで、サザエの壺焼き、あるいはハマグリの塩焼きなどを食された方もいらっしゃるのではないでしょうか。

さては桑名の焼き蛤

魚介類をこんが~り焼いた匂いがぷーんと漂ってくると、思わず唾をごくんと飲み込みたくなりますね。

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最初に掲げた桑名の写真が撮られた頃と同じ、1910年に発表された泉鏡花の「歌行燈」は、管理人が大好きな短編小説作品です。ご存知でしょうけれど、「行燈」は「あんどん」と読みます。文語体で書かれているので、いささか読みづらいという難点もありますが、まるで桑名の町の情景が眼の前のスクリーンに映し出されるような映像的写実性。そして何よりも能楽という芸能の奥深さが格調高い文章をもって如実に描かれており、鏡花の最高傑作としてこの作品を挙げる人は少なくありません。

少し長くなりますが、その終結直前の名場面を少し引用致しましょう。[読みが難しいのでふりがなを括弧内に入れてあります。また同じ理由から、原文の仮名遣いに若干手を加えたことをお断りして置きます。]


**********

「御老体、」雪叟(せっそう)が小鼓を緊めたのを見て……こう言って、恩地源三郎が厳然として顧みて、
「破格のお附合い、恐れ多いな。」と膝に扇を取って会釈をする。
「相変らず未熟でござる。」と雪叟が礼を返して、そのまま座を下へおりんとした。
「平に、それは。」
「いや、蒲団の上では、お流儀に失礼じゃ。」
「は、その娘の舞が、甥の奴の俤(おもかげ)ゆえに、遠慮した、では私も、」と言った時、左右へ、敷物を斉しく刎ねた。
「嫁女、嫁女、」と源三郎、二声呼んで、
「お三重さんか、私は嫁と思うぞ。喜多八の叔父源三郎じゃ、あらためて一さし舞え。」
二人の名家が屹と居直る。

瞳の動かぬ気高い顔して、恍惚と見詰めながら、よろよろと引き退る、と黒髪うつる藤紫、肩も腕(かいな)もなよやかながら、袖に構えた扇の利剣、霜夜に声も凛々と、
「……引上げたまえと約束し、一つの利剣を抜持って……」
肩に綾なす鼓の手影、雲井の胴に光さし、艶が添って、名誉が籠めた心の花に、調べの緒の色、颯(さっ)と燃え、ヤオ、と一つ声が懸かる。

「あっ、」とばかり、屹(きっ)と見据えた――能楽界の鶴なりしを、雲隠れつ、と惜しまれた――恩地喜多八、饂飩屋の床机から、つと片足を土間に落して、
「雪叟が鼓を打つ! 鼓を打つ!」と身を揉んだ、胸を切(せ)めて、慌しく取って蔽った、手拭に、かっと血を吐いたが、かなぐり棄てると、右手を掴んで、按摩の手をしっかと取った。
「祟(たた)らば、祟れ、さあ、按摩。湊屋の門まで来い。もう一度、若旦那が聞かしてやろう。」と、引っ立てて、ずいと出た。

「(源三郎)……かくて竜宮に至りて宮中を見れば、その高さ三十丈の玉塔に、かの玉こめ置き、香花(こうげ)を備え、守護神は八竜並居たり、その外悪魚鰐の口、遁れがたしや我が命、さすが恩愛の故郷のかたぞ恋しき、あの浪のあなたにぞ……」

その時、漲る心の張りに、島田の元結ふッつと切れ、肩に崩るる緑の黒髪。水に乱れて、灯に揺らめき、畳の海は裳(もすそ)に澄んで、塵も留めぬ舞振りかな。

「(源三郎)……我が子は有らん、父大臣もおわすらむ……」
と声が幽(かす)んで、源三郎の地謡う節が、フト途絶えようとした時であった。
この湊屋の門口で、爽やかに調子を合わした。……その声、白き虹のごとく、衝(つ)と来て、お三重の姿に射(さ)した。

「(喜多八)……さるにてもこのままに別れ果なんかなしさよと、涙ぐみて立ちしが……」
「やあ、大事な処、倒れるな。」と源三郎すっと座を立ち、よろめく三重の背(せな)を支えた、老の腕(かいな)に女浪(めなみ)の袖、この後見の大磐石に、みるの緑の黒髪かけて、颯(さっ)と翳(かざ)すや舞扇は、銀地に、その、雲も恋人の影も立添う、光を放って、灯(ともしび)を白めて舞うのである。

舞いも舞うた、謡いも謡う。はた雪叟が自得の秘曲に、桑名の海も、トトと大鼓(おおかわ)の拍子を添え、川浪近くタタと鳴って、太鼓の響きに汀(みぎわ)を打てば、多度山の霜の頂、月の御在所ヶ嶽の影、鎌ヶ嶽、冠(かむり)ヶ嶽も冠着て、客座に並ぶ気勢(けはい)あり。・・・

**********


能楽界で次代を担うに違いないと呼び声の高かった恩地喜多八は、若気の至りか、旅の途中で出会った少しばかり出来ると自慢の素人謡い好き按摩を前に、プロ中のプロである素性を隠して、わざと微かに調子を外した合いの手を入れて、その鼻をへし折るという悪戯をしてしまいます。芸の不得を恥じた按摩は自害。

これを知った叔父源三郎は、芸道を極める者にあるまじき所業と怒って喜多八を勘当してしまいます。都に留まることを許されず、何年間も当て所なく全国を彷徨う喜多八は、とある時に伊勢を旅する途中で出会った若い新米芸者お三重(実はかの按摩の娘)が、芸の無さをはかなんで消沈しているのを知って、能の舞いを一指し手ほどきします。

一方、弥次喜多道中よろしく偶然桑名の町を訪れた源三郎と、気のおけない無二の友であり、かつ鼓の名手雪叟が、余興にと呼んだ娘芸者お三重の舞いを一目見て、勘当した甥の名残りにすぐ気が付き、冒頭のシーンとなります。

桑名の町の夜にかーんと響き渡る鼓の音。これまた運命に引き寄せられたかのように、町の饂飩屋で別な按摩を相手に酒を飲んでいた喜多八は、叔父らの謡いと鼓の音に気付かぬはずはありません。

叔父源三郎らに介添えされるお三重の舞いと、宿の外に駆けつけ、老いのため途切れた叔父の声を謡い継ぐ喜多八。この絶妙の配置と夜空に響き渡る太鼓の音。見事な程に絵画的で、音楽的に至高の瞬間ではないでしょうか。何度読み返しても、背筋がぴんと張り詰める格調高い名場面です。

泉鏡花の「歌行燈」。未だ読まれてないという方は、夏休み最後のひと時をこんな古典作品に親しむのも如何でしょうか。

安藤広重の浮世絵「桑名」の風景が、最初に掲げた写真と不思議な程に一致するのも驚きです。


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えっ、恒例のお薦め音楽はどうなったかですって? まあまあ、慌てずに。それは次回、もしくは次々回の記事まで、お楽しみって言うことで・・・(つづく)

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アルプス
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相変わらず暑い日が続いています。日が暮れると所によっては幾分か過ごしやすくなっているはずなのですが、皆様お住まいの地域では如何でしょうか。

富山の話題が出ましたので、日本アルプスの話題などで涼を取りましょうか・・・。上の写真は立山連峰を黒部湖側から撮ったもので、下の写真は山の反対側、室堂付近にあります高原の池「ミクリが池」です。標高は約2,450 m。夏でも平均気温が15~16℃というのですから涼しいはずです。いや、実際行きました時は寒かったくらいです。

管理人は実は山登りやスキーが大好きです。北アルプスの山々は大概登りました。もっとも最近は忙しくて、そういう所に行っている時間がほとんど取れないのが残念です。と言うことで、本日は写真だけで再び行った気分になりましょうか。

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アルプスにちなんだ音楽と言えば、何と言っても大御所リヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」。この曲は日の出から日没までの山の1日を実に写実的に描いて、音響効果も抜群、感動的な名作です。もっともこの曲などは名曲中の名曲なので、皆様もよくご存知のはず。ここで特に取り上げるまでもないでしょう。

立山に関連して、黛敏郎が作曲した交響詩「立山」。この曲は、1971年に立山アルペンルートが開通したことを記念して、富山県が松山善三氏に映像製作を、黛氏にそれに付ける音楽を委嘱した結果生まれた作品です。パノラマ映像と見事に調和した、これもアルプスを感じさせる名曲でしょう。永らくLPレコードしかありませんでしたが、最近タワーレコードからCD盤が発売されているようです。

もう一つ「アルプス交響曲」の名を冠したクラシック音楽作品があります。ハンガリーに生まれ、1938年に米国東海岸に移住し、以来終生を同地で過ごした作曲家George Barati (1913-1996)の交響曲第1番(1963年作)です。この曲はBaratiが1963年にスイスを訪問した折、その滞在中に書かれたものです。前2作とは異なり、あまり描写的ではありません。むしろ心象風景としてのアルプスの威容を音符化したものと考えられ、もしもロマンティックな旋律を期待されると裏切られることになります。

Baratiの音楽は、緊張感に満ちた空間にびっしりと多彩な音を散りばめるところに特徴があるように思えます。ですから聴いていますと、否応無く耳に神経が集中して来ます。NaxosのCDには、後年の代表作品、光の歌Chant of Light (1994/95)と闇の歌Chant of Darkness (1993)が同梱され、Baratiの音楽書法がこのアルプス交響曲作曲時から確立していたことがよく分かります。ショーソンやダンディの同じく山岳を主題にした作品とは一風異なった硬派で熱いアルプス交響曲。並の音楽に飽き足らなくなった人には特にお勧めです。ただし、この暑い中にこんな変なものを食べて、熱を出したり、お腹を壊しても知らないよぉ~~。
★・・・・\(゜▽゜@)(@゜▽゜)/・・・・★

あれっ?涼しくなって頂くはずが熱くなっちゃった。ごめんなさ~い。m(_ _)m


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風の盆
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ゆらぐ釣橋手に手を取りて 渡る井田川オワラ春の風

富山あたりかあの燈火は  飛んでゆきたやオワラ灯とり虫

八尾坂道わかれて来れば 露か時雨かオワラはらはらと

若しや来るかと窓押しあけて 見れば立山オワラ雪ばかり


毎年9月1日から3日まで、三日三晩踊り明かされる富山県八尾の町に伝わる風物詩『風の盆』。元来このお祭りは、台風の被害を無事に逃れ豊年を祈願する豊年踊りが昔からこの地で踊り継がれて来たことに始まります。

上に掲げた写真は、その『風の盆』観光ポスターより拝借したもので、歌詞は、昭和4年に小杉放庵が作詞した「八尾四季」より。これに若柳吉三郎が振り付けした男踊り、女踊りが昔からの豊年踊りに加わり、これらが今日の芸術的にも優れた伝統芸能としての『風の盆』を形成しています。

踊り手の衣装は、男子は黒の法被に黒股引、女子は浴衣に黒のお太鼓で、共に編み笠を目深に被ります。徳島阿波踊りの連のように、町によって浴衣の色や柄が異なり、観る者の眼を楽しませる趣向にこと欠きません。また唄いには、囃子手、三味線、胡弓、太鼓が付き、とりわけ胡弓の哀調を帯びた音色が、この祭りの踊りをひときわ情感豊かなものとして引き立てます。

最近では、全国的に有名になり、なかなかこの時期の宿を確保するのは至難となっている由。もしも、お近くでご興味がある方は日帰りで、遠方の方は今年は無理にしても来年以降にでも、是非ご覧になることをお勧め致します。

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『風の盆』はほんの一例として、富山県はその他にも五箇山などに独特なものが残されているなど、実に民謡の宝庫です。皆さんよくご存知の「越中おはら節」「こきりこ節」などは、民謡に詳しくない方でも、一節聴くだけで、ああ、あの曲ですねとすぐお分かりになることでしょう。

2005年に富山県立福野高等学校吹奏楽部により委嘱された坂井貴祐さんの「吹奏楽のための『越中幻想』」は、そうした富山に伝わる名旋律を巧みに素材として使った作品です。発表後、全国各地の団体がこの作品を取り上げています。CDとしては、志村健一指揮、Strauss Blas Orchester演奏(Wako Records WKCD-0004、アルバムタイトルは「ナスカ」)のものが比較的入手容易です。また、本年3月に京都で行われた邦人吹奏楽作曲家のための演奏会「第3回『風雅』」の実況録音盤(Wako WACD-0182)でも聴くことが出来ます。

静かに新内流しが聞こえる幻想的な冒頭から、激しい太鼓のリズムに推進力を得て大爆発するエンディングまでの10分間。吹奏楽の魅力が満載した名品だと思います。


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白地に青く
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この写真はエジンバラ城の遠景です。実に堂々たる城構えではないでしょうか。

今月14日、英スコットランド自治政府のサモンド首相は、スコットランド独立に向けた住民投票案を提出しました。発表された49ページにのぼる政策報告書によりますと、「『変化がない』というのはもはや選択肢ではない」として、独立の是非を問う住民投票を2010年までに実施することを目指すということです。

アイルランドと英国(イングランド)との関係がそうであったように、スコットランドとイングランドも、古くから支配し、支配される、複雑な関係の歴史を持っています。宗教的にも英国のイギリス国教会に対し、スコットランドではカトリックが主流という違いがあり、なかなか折り合いが付きません。

サモンド首相はイングランドからの分離独立を党是としているスコットランド民族党を率いており、このことにより英国内で「独立の是非」をめぐる議論が本格的に再燃することは必然となりました。まだまだ「独立は非現実的」と見る向きもありますが、長期的な可能性は否定できず、連合王国の解体は決して絵空事ではなくなってきています。果たして300年来の英国支配を脱してスコットランドが真の独立を勝ち得るか、あるいは現在のような自治政府という形で無難に連合状態を持続するのか、はたまた両者の思惑がこじれにこじれて北アイルランド紛争のような事態が起こってしまうのか、これからの動向が注目されます。


スコットランド音楽と言えば、誰もが真っ先に頭に浮かべるバグパイプ演奏が代表的ですが、その他に打楽器による勇壮なリズムを背景に士気を高めるのに極めて有効な管楽器が活躍する吹奏楽もその大きな根幹をなしています。

スコットランドに限らず、広い意味で英国のクラシック作曲家は皆、吹奏楽の分野でも作品を書くことが通例になっています。専ら吹奏楽のジャンルを中心として作品を発表し続けている作曲家も少なくありません。吹奏楽が盛んな英国では、そのニーズが高く、貴重な収入源になっているという事情も大きいからです。

そんな作曲家たちにとって、スコットランドが格好の主題となるのは何ら不思議ではありません。吹奏楽の分野で、近年目覚しい活躍をしているフィリップ・スパーク(Philip Sparke, 1951-)という作曲家がいます。彼はロンドンの生まれですが、イングリッシュからスコッティシュまで幅広い聴衆を意識しており、現在最も油が乗った、また最も人気のある吹奏楽作曲家の一人となっています。彼には本当にたくさんの傑作がありますが、今日は上の話題との関連から、2002年にYorkshire Building Society Bandがヨーロッパ・ブラスバンド選手権出場のために委嘱されて作曲した「ハイランド賛歌 Hymn of the Highlands」をご紹介しておきましょう(Polyphonic QPRL 214D)。連続した7曲から成る組曲のような構成ですが、全曲演奏に約35分を要する大作です。勇壮な太鼓のリズムと朗々と鳴り渡るトランペットが全編を覆います。これに鼓舞されなくて何に胸躍ることがありましょう。


エジンバラ城に、ユニオンジャックの旗が降ろされて、『夕暮れのハイクロス』(白地に青の斜め十字のスコットランド国旗のこと)がはためく日も決して遠くないような気が致します。


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一服
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毎日うだるような暑さが続いていますねぇ。暑気払いに夏季限定のこんな和菓子は如何でしょうかね。冷蔵庫で充分冷やしてから、熱っついお茶と一緒に召し上がるととても美味しいですよ。
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