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一度踏み入ったら出口の全く見えない音楽の深い森。森の中を彷徨い歩く内に出会った神々と妖精たちのお話です。

ふたりのフレデリック
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管理人は先週まで目が廻るほどの忙しさ。週末に1週間溜めるだけ溜めた洗濯ものを済ませ、アイロン掛けを終えた頃にはもはや夕暮れ時で、身体を休める間もありませんでした。ベッドに横になって好きな音楽を聴くのがささやかな楽しみです。


さて、まもなくパリに立ち寄ります。1年振りのパリです。上の写真は昨年ほぼ同時期に撮ったものですが、凱旋門辺りを歩いていたら雪がちらつき始め、とても寒かった記憶があります。さて今回はどうでしょうか。あ、その前にフランス語をもっと勉強しなくっちゃ。いつまでもビギナーレベルで、そろそろ上の級に進まなければとテキストだけは持っているのですが・・・。





ところで最近、西洋クラシック音楽の無名名曲の中から、管理人がこれは是非皆様にお薦めしたいっていう曲を紹介するという本来のテーマからすっかりご無沙汰となっておりました。そこで本日は、最近発掘した中で特にお気に入りのCD1枚をチョイスしました。これです。↓


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hyperionから「Romanntic Piano Concerto」シリーズと題しておよそ50数枚以上のCDが発売されていることは、クラシック音楽ファンなら先刻ご存知のことでしょう。モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、ショパン、チャイコフスキーといった超有名作品の仲間入りをし損ねた無数のロマン派以降の作品群の中から、歴史の闇に葬り去られるにはあまりに惜しい作品を次々と取り上げ、優秀な演奏と録音で提供するという発掘作業が綿々と続いており、クラヲタファンには神棚に祀って拝んでも拝み足りないハイぺリオン様々です。


そのhyperionが「Romantic Violin Concerto」シリーズとして、ポツポツと思い出したように発売している中の一枚が上記のCD (CDA67838)。作曲者名は、「d'Erlanger」と「Cliffe」とだけあって、おそらく余程の音楽ファンでもなければ、2人とも初耳の作曲家ではないでしょうか。


前者のフルネームは、Frederic Alfred d'Erlanger。ドイツ系ユダヤ人であった父 Frederic Emile Baron d'Erlanger (1832-1911)は、メンデルスゾーンと同じように裕福な銀行家の家系に生まれており、最初のお相手として同じ銀行家でもあり、またパリの名家でもあったLafitte家の娘と結婚し、この時にキリスト教に改宗しています。が、これは不幸な結果に終わり、まもなく離婚。やがて米国旅行中に仏系アメリカ人としてニューオーリンズに駐在していた法律家John Slidell (1793-1871)の娘 Marguerite Mathilde Slidell (1842-1927)と再婚しました。彼らの間には4人の子供が生まれ、その3番目が Frederic Alfred d'Erlanger (1868-1943)です。彼も一時は銀行家となっていますが、今日では微かながらですが音楽家としてその名が記憶されています。つまり、そのくらいマイナーな作曲家です。姓は「デランジェ」と発音されますから、フランス系と思われるかも知れませんが、 上記の経緯の通り、d'Erlanger一家は実際にはコスモポリタンな人生を歩んでおり、最終的に英国籍を取得しましたから、一応英国の作曲家ということになります。


一方、CDで取り上げられている後者のフルネームは、Frederic Cliffe (1857-1931)。5月2日が誕生日です。(^_^)
Cliffeは純粋に英国生まれで、Royal College of Musicの前身であるNational Training School for Musicに入学、その後Royal College of Musicのピアノ科教授を1884年から1931年まで勤めました。お弟子さんの中にJohn IrelandやBenjamin Brittenらがいたということですが、作曲の方ではほとんどこれといった作品を残しておらず、僅かに1889~1905年の間に書かれた2曲の交響曲とこのヴァイオリン協奏曲だけが今日知られています。特にこのViolin Concerto in D minorは、作曲されたのが1896年で、出版されたのはなんと2007年!


2人の作曲家の作品を1枚のCDにまとめたハイペリオン。どちらもRomanticシリーズの名に恥じない美しい曲ですが、両作曲家のFirst Nameが「Frederick」というところが実はみそなのです。同じ19世紀末前後の作品を取り上げながら、こんなところにCD製作者のさり気無い遊び心を見つけることが出来ますからhyperionって大好きなんです。両Vnコン共に耳に馴染みやすく、リビングルームで聴くにはもってこいの佳作です。両曲の間には、d'Erlangerの「Poeme in D major」という7分半の小品があり、これまたショーソンの「詩曲」のように美しく可憐な作品です。





殺伐としたニュースが続く毎日。緊張が連続する仕事の日々をしばし忘れて、本場ヨーロッパで心ゆくまで音楽浴でもして来ようかしら・・・。(←そんな時間はないって)
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革命バレエ
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1週間という短い日本滞在もあっと言う間に過ぎてしまい、再び管理人は仕事の最前線に向かうことになりました。この時期のシベリア大陸は真っ白な雪と氷に覆われ、北極海との境界も定かではありません。この先、最終目的地まで到着するにはまだまだ長い道程が残っています。


前回の記事「Mao's Last Dancer」では、中国文化大革命時代のバレエ事情がある意味鮮明に描かれていました。昨年10月24日の記事の中で、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)における文芸革新運動としての革命歌劇について取り上げました。当然この運動は、本家中華人民共和国(中国)における文化大革命の影響を受けたものであり、本日は中国における「革命歌劇」、およびそのバレエ版となる「革命バレエ」について触れてみたいと思います。


1960年代から70年代にかけての中国では、共産革命の引き締めが国内あらゆる分野において行われ、特に文化面において親西洋的なものはすべて反動的とみなされ、厳しい批判・弾劾の対象となりました。西洋音楽、とりわけクラシック・バレエなどは槍玉に挙がった最たるものの一つであり、ソビエト連邦(ロシア)が根底においてヨーロッパ文化の粋を集めたバレエに対してその美と伝統を守ったのとは対照的に、中国ではすべての古典的な演目は公演が禁止され、党の方針にかなった8つの模範演目だけが公演を許されることになりました。それらは今日、中国の「革命歌劇」(バレエの場合「革命バレエ」)と呼ばれています。

その演目の一つ、江青毛沢東夫人が礼賛し自ら演出にもかなり指導の手を加えた「紅色娘子軍」というバレエがあります。バレエ映画として1962年に初めて上映され、バレエの実演としては1964年に北京にて初公演。さらには1972年に京劇版が制作されています。



物語は、1930年代の中国南部に位置する海南島を舞台にしています。実在のモデルがあり、それを基に制作されたそうです。当時その地域を支配していた国民党の悪徳地主、南覇天に捕われていた貧農の娘、呉清華が命からがらそこから逃げ出したものの、ジャングルの中で再び捕まり、南氏らにより半死半生の目に遭わされます。そこを偶然通りかかった中国共産党革命軍の青年洪常青が彼女を助け、革命軍に誘います。

やがて常青と清華は客人を装い、うまく地主の屋敷にもぐり込み、一味を一網打尽することを企てますが、清華の早まった行動のため肝心の南覇天を取り逃がしてしまいました。清華は共産軍の訓練キャンプの中で仲間たちと暮らす内に、私怨だけで事を起こすのでは駄目で、革命の大義に目覚めなければ真の勝利は得られないことを悟ります。そして同じような貧農出身の女子だけから成る部隊「紅色娘子軍」を形成し、そのリーダーとなりました。

それから暫くの後、常青の部隊に援軍が合流した丁度その時、南覇天の本陣に攻撃を仕掛ける緊急集合の指令が本部から届きます。激しい戦闘の結果、常青は負傷。南一味に捕われてしまいました。そして到頭火あぶりの刑に処されてしまいますが、その末期の瞬間、紅色娘子軍の歌が遠くから聞こえて来ることが分り、勝利の日は近いことを確信して火の中へ身を投じます。

再び激しい戦いの後、ついには革命軍が南軍を撃破。南覇天も清華の放った銃弾に当たって絶命します。残念ながら革命の英雄洪常青はもうこの世にはいないけれど、革命軍一同が舞台の奥から力強く前進することで、真の革命が成就され、明るい未来が中国に訪れることを暗示して舞台は幕を閉じます。「Mao's Last Dancer」の中でも登場しているシーンです。


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1962年に初めて映画となったヴァージョンに江青夫人が何度も修正指導を加えた完成版「紅色娘子軍」(1970年完成)全編を、高音質のYouTubeで見ることが出来ます。西洋クラシック・バレエとはかなり異なりますから、初めは違和感があるかも知れませんが、観ている内になかなか惹き込まれるものがあり、これはこれでありかなという気になりますから不思議です。戦闘場面では、激しい爆弾と銃声の中、兵士たちが一気呵成に敵陣になだれ込むシーンが圧巻で、小さな画面で見ただけでも迫力満点ですから、生で見たらきっと鳥肌ものでしょう。踊りだけでなく音楽にもご注目を。

ではバレエ版「紅色娘子軍」の始まり始まり~。(^_^)





続きをご覧になりたい方は、以下の数字のところをクリック。全編は各10分程度ずつ10個の映像に分割されており、全曲視聴に100分程度かかります。そんな時間はとても無いというお方は、5/10、7/10、そしてクライマックスの8/10~10/10の一部だけでもご覧になってみては如何でしょうか。


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3/10

4/10

5/10

6/10

7/10

8/10

9/10

10/10


英雄洪常青が火刑される最後のシーンでは、「インターナショナル」のメロディーが実に効果的かつ感動的に使われています。政治指導体制が大きく様変わりした今日にあっても、同作品が根強い人気を保っているのがよく分る傑作だと思います。



Mao's Last Dancer
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久し振りに日本に一時帰国致しました。ほっと気が休まったというのが正直な気持ちです。搭乗した航空会社はKLMで、日本食からしばらく遠ざかっていましたので、機内食はやはり和食をチョイス。


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他の会社だったら、さらに洗練された豪華な和食が出たかも知れませんが、贅沢は言いません。お味噌汁も3ヶ月振りでしょうか。とても美味しく頂きました。長いフライト中の楽しみは、いつもなら音楽です。何故かKLMのジュークボックスは、この1年間近くほとんど更新がありません。特にクラシック音楽のCDは以前に乗った時と全く同じラインアップで、ヤンソンス指揮、コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏(R.シュトラウスの「アルプス交響曲」とマーラーの「第6交響曲」)が素晴らしいのは事実ですが、もう聴き飽きてしまいました。ポップス系のCDなどはそれなりに何十枚も何百枚もあって選ぶのに苦労するくらいなのに、クラシックは音楽ジャンルとして、やはりマイナーなのでしょうか。本当に時々は入れ換えて欲しいものです、KLM様。(^_^)/


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そんな訳で、音楽の方は諦めて映画はどうかなと物色しましたら、新作の中から面白そうな映画がありました。タイトルは「Mao's Last Dancer」です。既に日本では「小さな村の小さなダンサー」という題名で公開済みであったことを後で知りました。が、管理人はあいにく近年映画を観に行く余裕など全く無い状態で、上映館の情報はもとより、その映画の存在にすら全く気がつきませんでした。しかし、この映画。見始めたら、これが本当に面白いのです。モニター画面にかぶりつくように2回も観てしまいました。^_^;





物語は、文化大革命の嵐が吹き荒れる1970年前後の中国の片田舎から、11才の1人の少年が選ばれて中央に連れていかれ、その当時の中国では全くマイナーな存在でしかなかった西洋バレエの特訓を受けるというお話です。少年は全国各地域から選ばれた少年たちに比べて、身体は一段と小さいし、また非力で、どうして自分が選ばれたのか分りません。毎夜懐かしい故郷の父母を想い出しては、しくしくと泣き出すばかりでした。

そんな泣きべそ少年が、やがて良き指導者に出会ってメキメキと頭角を現すようになります。そしてついには偶々中国を訪問しにやって来た米国のとあるトップ・バレエ団一行の眼にも留まることになりました。彼に米国への短期バレエ留学のチャンスが与えられたのです。

中国とは何もかもが事情の異なるアメリカの大都市ヒューストンへ。初めはほんの3ヶ月だけという約束であった留学が終わる頃、彼は現地で知り合った白人女性に恋をして、米国での永住権を取得すべく電撃的に結婚をしてしまいます。愛する女性と一緒に米国に留まりたいという動機からでしたが、それは同時に祖国中国には戻らないということを意味する一大決心です。当然のことながら、国際的な大問題となってしまいました。





主演はツァオ・チー、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団のプリンシパルを勤めるバレエ・ダンサーのプロ。原作はリー・ツンシン (Li Cunxin) の書いた自伝「小さな村の小さなダンサー」。つまり実話に基づいた映画作品です。主人公の米国亡命問題は、結局、時の最高権力者小平氏とブッシュ(父)米国大統領の直談判により解決をみます。中国はやむなく彼の亡命を認めるというものでした。


もっともツンシンの自伝によると、その愛する女性のために留まった筈の彼女とは、実はその1年後に早くも別れてしまったということでした。この事実について、映画では殆ど触れていません。男女共に実在の人物ですから、敢えてプライバシーの問題は避け、バレエの世界の魅力を存分に引き出すことにブルース・ベレスフォード監督は注力したのでしょう。ちなみに、この作品はオーストラリア映画で、撮影にあたって中国でのロケもされています。主人公の見事な踊りは勿論ですが、文化大革命時代とその直後の様子、たとえば江青毛沢東夫人の実写シーンを効果的に挿入するなど、中国の実情が実によく描かれていると思います。確かにあの時代の中国の頑な政策を批判・揶揄するシーンも無いではありませんが、全体的には同国との関係が丸く治まるように慎重に作られていることに観客の方も気づかれることでしょう。中国に関連した音楽芸術作品として、「北京ヴァイオリン」と並んで長く記憶に残されるべき名作だと思います。こちらで予告編を見ることができます。まだご覧になられていない方は是非どうぞ。



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