一度踏み入ったら出口の全く見えない音楽の深い森。森の中を彷徨い歩く内に出会った神々と妖精たちのお話です。

夏の最後のバラ
TLRS1


[原詩: Thomas Moore (1779-1852)によるThe Last Rose of Summer (夏の最後(名残)のバラ)]

'Tis the last rose of summer,         
Left blooming alone;         
All her lovely companions    
Are faded and gone;         
No flower of her kindred,      
No rosebud is nigh,         
To reflect back her blushes,
Or give sigh for sigh!          


I'll not leave thee, thou lone one,    
To pine on the stem;          
Since the lovely are sleeping,   
Go sleep thou with them.      
Thus kindly I scatter      
Thy leaves o'er the bed      
Where thy mates of the garden    
Lie scentless and dead.        


So soon may I follow,         
When friendships decay,        
And from Love's shining circle  
The gems drop away!    
When true hearts lie withered,   
And fond ones are flown,      
Oh! who world inhabit         
This bleak world alone?          


[和訳]

それは夏の名残のバラ
一輪だけ咲き残る
同じ木に咲いた美しき仲間たちはすでに
色褪せ散っていった
ともに咲く同じ血筋の花もなく
小さな蕾すらそばにいない
仲間がいれば紅の色を映しあったり
嘆きを分かち合うことも叶うのに


さびしい薔薇よ 私は おまえを
茎の上で嘆き暮らすままにはしない
愛しい仲間は永久の眠りについているのだから
さあ、共に眠るがいい
こうやっておまえを手折り
花壇に葉を優しく散らしてあげよう
仲間だった花たちが
香りもなく散り敷く その上に


まもなく私も後に続くだろう
友情が朽ち去り
そして愛の輝ける団欒の輪から
宝石のような大切な人たちがこぼれ落ちる その時に
心を許しあった人が枯れ果て
愛しき者たちも去ってしまったら
ああ、誰が生きて行けようか
この凍える世界に独りきりで




夏が終わろうとしてしている時、ふと庭に咲き残っていた一輪のバラを見て、まるでわが身の周囲から一人、また一人と先立っていった愛する家族や友人たちのことを想い出し、独り年老いてこの世に生き永らえている孤独な寂寥感を詠ったご存知アイルランドが誇る大詩人トーマス・ムーアの傑作です。


この歌の日本語版は、明治17年(1884年) 「庭の千草」のタイトルで、音楽教科書『小学唱歌第3編』に掲載され世に知られるようになりました。


庭の千草  [詩・里見 義(ただし)]

庭の千草も 虫の音(ね)も
枯れて さびしく なりにけり
ああ 白菊  ああ 白菊
ひとり 遅れて 咲きにけり

露にたわむや 菊の花
霜に おごるや 菊の花
ああ あわれあわれ ああ 白菊
人の操(みさお)も かくてこそ


「庭の千草」では、老い先が短い寂しさが主題ではなく、また季節も霜が降り始める晩秋から初冬の頃に、露の重みをものともせず凛と咲く白菊に主題が置き換わっている点が異なります。どちらも、その時代と国民性を反映して実に見事な傑作となっているように思います。


なお曲は、エドワード・バンティング(Edward Bunting、1773~1843)のアイルランド民謡集に収められていた「The Groves of Blarney(ブラーニーの木立)」を原曲として、それを大きく書き換えた旋律となっています。また「ブラーニーの木立」という旋律自体は、リチャード・アルフレッド・ミリキン(Richard Alfred Millikin、1767~1815)が「Castle Hyde(ハイド城)」という名のアイルランドに伝わる古民謡を書き直したものだとされています。


ちなみに、ドイツのフリードリヒ・フォン・フロトー(Friedrich von Flotow、1812-1883)が作曲したオペラ「Martha(マルタ)」(1847年初演)の中で村娘マルタに変装した主人公がこの歌を歌ったことにより、ヨーロッパ本土でも知られるようになりました。


以下、それぞれのヴァージョンでこの名曲を聴いてみましょう。


The Groves of Blarney(ブラーニーの木立) (注. 後半は演奏者独自の変奏あり。)



オペラ「Martha」からLast Rose of Summer (歌唱: Renee Fleming)



庭の千草 (歌唱: Shaylee)



男声による「「The Last Rose of Summer」 (歌唱: John McDermott)






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