一度踏み入ったら出口の全く見えない音楽の深い森。森の中を彷徨い歩く内に出会った神々と妖精たちのお話です。

コンセルトヘボウの夕べ
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以前さりげなく予告しておりましたアムステルダム・コンセルトヘボウの音楽会に行って参りました。少々早いけれど、今年も何かと頑張った自分へのささやかなご褒美です。(^_^;)


ところで、コンセルトヘボウの名前は皆さんご存知でしょうけれど、これってどういう意味か分かりますか。文字で書いたら、CONCERT-GEBOUW。 もちろん、CONCERTはコンサートですね。では「GEBOUW」の方は?


答えは、オランダ語で「建物」っていう意味なのです。発音は、「ヘボウ」というよりは「ヒュボウ」の方が正しいようです。要するに「コンサート用の建物」という何の変哲もない命名だったものが、いつの間にかそのまま固有名詞になったというわけですね。完成が1888年で、現在までそれが引き継がれています。収容人数は1階席と2階席合わせて約2,000人。ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の本拠地であり、ホールの音響効果が大変優れていることで有名です。歴史的には、マーラーやクレンペラーらが指揮台に立ったこともあり、何よりも2代目の常任指揮者ウィレム・メンゲルベルクが50年間もその職を務め、この楽団を一躍世界の超一流オーケストラに仕立て上げたことは知らぬ人はいないことでしょう。


コンサートの開始時間より少し早めにホールに着きました。内部はこんな感じです。


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正面のオルガンが立派です。写真ではよく分からないかも知れませんが、いわゆるポディアム席がオルガンの左右にあります。


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座席の後方部はこんな感じ。ビロードの座席が座り心地が良く、決して大きなホールではありませんから、実にアットホームな雰囲気で音楽を聴くことができます。


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ステージに向かって反対側の1階席と2階席の間を撮影したものです。古今の作曲家名が金文字のプレートとして掲げられています。Bruckner、Mahler、Franck...。注目の中央の位置にはマーラーの名が堂々と。周りを見回してもオランダ人の作曲者がいないではないかという突っ込みはやめておきましょう。兎に角、クレンペラーが初のマーラーの全交響曲チクルスを此処コンセルトヘボウで催したことや、バーンスタインが晩年完成したマーラー交響曲全集で、幾つかの曲をロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とこのホールで録音したことからも分かりますように、マーラーとコンセルトヘボウとの結びつきはウィーン・フィルと同じくらいに強いものがあります。


余談ですが、管理人が生まれて初めてマーラーやブルックナーの音楽に触れたのは、前者がメンゲルベルク指揮の交響曲第4番で、後者がメンゲルベルクと並んで同楽団の首席指揮者を務めたこともあるエドゥアルト・ファン・ベイヌム指揮の交響曲第9番のレコードによるものでした。今から思えば、決して良質の録音とは言い難かったにも拘わらず、前者では第3楽章の天国的な美しさに文字通り陶酔するほどの感銘を受け、後者ではこれぞ神の降臨!とひれ伏すほどに多大な感動を覚えたことをよく記憶しています。考えてみれば、管理人もそれほどにコンセルトヘボウとは深いご縁があったのですね。





さて、肝心のコンサートの演目は次の通りです。


フォーレの管弦楽組曲「ペレアスとメリザンド  Suite 'Pelléas et Mélisande'」 op. 80
ベルリオーズのカンタータ「クレオパトラの死   La mort de Cléopâtre」叙情的情景  H 36、 'scène lyrique'
 (ここで休憩)
ラベルの「高雅で感傷的なワルツ Valses nobles et sentimentales」
ドビュッシーの交響詩「海   La mer」 L. 109


指揮は、今売り出し中のイタリア系英国人Robin Ticciati さん。1983年生まれだそうですから、本当に若き俊英といった雰囲気で、またなかなかのイケメンでもあります。ちょっとサイモン・ラトル氏の再来?といった感じがしないでもありません。


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後で調べたら、ウィキペディアには、コンセルトヘボウの項目のところに次のように書いてありました。

・・・普段は運転手以外にネクタイを見かけることすら稀なトラム・バスにあって、コンサートの前後の時間に限って盛装の男女がひしめくという、オランダならではの光景が発生する。
オランダ社会の特質によって厳格なドレスコードは無く服装によって入場を断られることは無いが、カジュアルでは居心地が悪かったりフォーマル過ぎて浮くこともあるので演目や時間帯によって各自で判断されたい。・・・

連れもなく、たった独りで聴きに行くにはこの説明では大いにビビってしまうではありませんか。先に読んでいなくてよかったぁ。


兎に角、管理人は寒さ対策だけは十分に施して、ごくごく普通の服装で行くことに致しました。って言うか、パートナーもいないのでは、それなりの恰好で行っても反って浮いてしまいますものね。


さて、本番の当日。ウィキに書いてある通り、続々とホールに到着されるお客様たちは、ご年配のカップルが多く、ほぼ正装です。男性は皆さんネクタイ着用でしたし、女性は皆さんドレッシーな装いです。もちろん普段着に近い方がいらっしゃらなかったわけではありませんが、あまりにカジュアル過ぎる恰好では浮いてしまったことは確かでしょう。アブナイ、アブナイ・・・、管理人はギリギリ、セーフだったかな(汗)。


しかし、では格式張ってばかりのお堅い音楽会かと言うと、実はそうではなく、楽団員の方たちの知り合いが多いのか、ステージにいる楽団員たちと客席側にいるお客様が握手しながら、「元気にしてる?」なんている会話を彼方此方で見かけました。それだけこのオーケストラが、一般の市民の方たちと近い距離にいることが、そんな光景からも分かります。


ホールの音響効果が優れていることは既に書きました。練習中にステージで鳴らすどの音も、まるでサウンドミキサーが録音のために各楽器をコントロールしているかのように明瞭に聴き取ることが出来ます。そして音がホールの隅々にまで響き渡る感じなのです。フランスものの夕べ、さてどんな演奏会になるのかワクワク・ドキドキ...。


指揮者を務めたRobin Ticciati さん。お写真の通り、爽やかな笑顔で登場。軽く会釈の後、直ぐにフォーレの繊細な音楽からスタートです。全体に快速なテンポで、あれこれスコアをいじくるのではなく、オーケストラの実力にお任せといった風で、管理人にはまるで秋の麦畑に広がるそよ風のように心地よく繊細な音楽が頭の中を通り過ぎて行くような感じでした。


基本的に後の演目でもすべて同じような印象を受けましたから、おそらく指揮者がそのような音楽を意図していたのでしょう。実は最初の3曲共に共通して、終わり方が派手ではなく、むしろ消えゆくように静かにエンディングを迎えます。そのため、拍手を始めるタイミングが難しく、聴衆も戸惑いながらもパラパラと打ち始めるという、ある意味では予想外の(ある意味予想通りの)ハプニングも。これは、最後の交響詩「海」の終結部で、フルオーケストラによる強烈なクライマックスを築き上げて終わるための仕掛けだったのではと、後からすれば気が付いた次第。3番目と4番目の曲目については言わずもがなの有名曲ですから、ここでは説明を割愛するとして、珍しいのは第2曲目の作品でしょうか。


カンタータ、叙情的情景「クレオパトラの死」は、ベルリオーズが当時若き作曲家の登竜門であるローマ賞に応募し始めた3年目の作品です。しかし、本人の意欲的な取り組みにも拘わらず、その劇的で過激な内容から審査員たちの顰蹙を買い、受賞には至りませんでした。幻想交響曲作曲の1年前のことです。


このドラマチックなオペラの一場面を見るような作品を、ブルガリア人のメゾ・ソプラノ Vesselina Kasarova さんが歌いました。真っ赤なドレスに胸の谷間を強調したドレス。スラリとした長身から、なまめかしくも、低音ではドスが効いたとでも言うのでしょうか、迫力ある歌唱で、聴衆を圧倒です。「海」のラストと本曲、そして全体に行き渡っていたコンセルトヘボウ・サウンドがこの日の演奏会の目玉だったように思います。Ticciatiさんの指揮者としての実力は、また別の機会に別の曲で評価するべきかと思った次第です。





そういうわけで、本日の音楽は、あまり日本では聴く機会が少ない珍曲、ベルリオーズのカンタータ「クレオパトラの死」叙情的情景をどうぞ。当日のではありませんが、Kasarovaさんが歌った録音がYouTubeにありました。




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コンセルトヘボウ
はじめまして。コンセルトヘボウは一回だけ行ったことがあるので(コンセルトヘボウ管ではなかったですが)、記事を読んで・写真を見て懐かしく思いました。歌手がカサロヴァだったとは羨ましい限りです。
Jutta | URL | 2015/03/02/Mon 09:10[EDIT]
いらっしゃいませ!
>Juttaさん

はじめまして。このあまり人の往来が少ない静かなブログにようこそ。コンセルトヘボウは音響効果が大変優れており、しかもチケットがネットで簡単に取れるので、演目に興味が湧き、スケジュールさえ合えば時々聴きに行っています。この時は比較的コンサートの直前に取ったので、席がステージに近過ぎて少し見上げる感じだったのですが、お蔭様でカサロヴァさんのお姿がよく見え、また息使いも具に拝見することができました。また、いつでもお立ち寄り下さいまし。
RAM | URL | 2015/03/03/Tue 10:12[EDIT]
コンセルトヘボウ
返信ありがとうございます。
コンセルトヘボウは他のホールに比べてステージがかなり高いですよね。

行き慣れておられるようで、コンセルトヘボウ事情についてお聞きしたいです。
コンセルトヘボウ管の演奏会の客席の埋まり具合はどんな感じですか。チケット取りやすいとのことですが、当日は結局やはりほぼ埋まってます?それとも演奏会によるってところでしょうか。
特に訪れる予定はないのですが知りたいと思いお聞きしました。
Jutta | URL | 2015/03/04/Wed 10:48[EDIT]
コンセルトヘボウのチケットは
管理人のこのオーケストラのチケットを確保する方法は、以下の通り。
先ずコンセルトヘボウのHPに入り、「Concerts & Tickets」をクリック。
https://www.concertgebouw.nl/en/concert-schedule
このページでこれから先の演奏会の予定がずらっと現れますから、関心のある演目と演奏日のところを探し、「Buy tickets」をクリック。この時、会場の座席マップと共に空いている席が値段と共に表示されます。自分が好きな席をクリックして選べます。後は一定時間内にクレジット・カードの情報等を入力すると支払いが完了し、チケットをプリンターに印刷することが出来るというシステムを利用しています。プリンターがあいにく無くてもメールで後から送られて来ますから、世界中どこにいても購入可能です。

完全に満席になるかどうかは、やはり演奏家の人気度合いによります。たとえば今週でしたら、アンネ・ソフィー・ムターさんによるシベリウスのVnコンの演奏予定がありますが、さすがにほとんど売り切れで僅かに数席が残っている状態のようです(このコメントを書いた時点で)。一般的に最前列の端っことか、俗に言うところの良くない席でもよろしければ、案外当日でも入手可能のことが多いです。仰るようにステージが高いのは事実ですが、特に全体を見渡される席に拘らなければ、音響的にはそういう端っこの席でも結構楽しめますよ。
RAM | URL | 2015/03/04/Wed 16:55[EDIT]
コンセルトヘボウ
どうもありがとうございます。

RAMさんはもう長くアムステルダムにお住まいで、今後もその予定ですか。
次回のコンセルトヘボウの記事を楽しみにしています。
Jutta | URL | 2015/03/07/Sat 15:57[EDIT]
居住場所は
原則として住んでいる場所や仕事内容などに関しては、本ブログでは明示しないことにしています。どうか悪しからず。ただし、コンサートの感想など機会がありましたら、またアップしたいと思います。
RAM | URL | 2015/03/16/Mon 00:11[EDIT]
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