一度踏み入ったら出口の全く見えない音楽の深い森。森の中を彷徨い歩く内に出会った神々と妖精たちのお話です。

白鯨
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機内で「In the Heart of the Sea」(邦題『白鯨との闘い』、2015年制作)を観ました。1851年に刊行された古典中の古典とも言える名作ハーマン・メルヴィルの『白鯨』を映画化したのではなく、むしろその元ネタとなった実話でオーウェン・チェイス1等航海士が書き残した『捕鯨船エセックス号の驚くべき悲惨な難破の物語』に則した映画作品です。


1819年8月12日にアメリカ東海岸の捕鯨基地の島、ナンタケット島を出港したエセックス号は、大西洋を遥か南米アルゼンチンのホーン岬まで南下し、クジラが居る南太平洋まで漕ぎ出します。南米大陸の西海岸に沿って、赤道近くまで北上しましたが、なかなかクジラに出会えません。蝋燭やランプの材料として、また医薬品など多用途の資源として当時極めて貴重で高価な鯨油が取れなければ、遥々遠方まで捕鯨船を出した出資者たちは大損を喰らってしまいます。しかし一方、もしも鯨油を船一杯にして帰還したら、巨万の富が約束された捕鯨事業です。手ぶらで引き返すという選択肢など考えられる筈もなく、若いジョージ・ポラード・ジュニア船長は熟練のオーウェン・チェイス1等航海士らを率いて、到頭未知の領域、赤道上を遥かガラパゴス諸島を超えて西方数千キロの沖合まで乗り出すという決定を下します。


ナンタケット島を出港してから約1年3ヶ月後の1820年11月20日、ついにマッコウクジラの一群をエセックス号は発見。直ちにクジラの捕獲に取り掛かりましたが、その中の巨大な1頭がエセックス号を目掛けて突進して来るという信じ難い展開に。2度に渡るクジラの体当たり攻撃により、船は大破・沈没してしまいます。海に投げ出され、辛うじて生き残った乗組員20名は3隻のボートに分乗し、かき集められるだけの僅かな食糧と水をボートに乗せ、それからいつ果てるともない漂流が始まります。推定された位置は、南米大陸から海上遥か3,700 kmの太平洋上。この後、(当初は死んだ)仲間の肉を食いながら(後には殺し合いまでして)生き延びるという想像を絶する漂流生活の後、同じくナンタケット島からやって来た捕鯨船、ドーフィン号によって漂流する1隻のボートが発見されたのが、1821年2月23日。このボートの生存者は2名。もう1隻は別の船によって救出され、こちらの生存者は3名。ボートには何と人骨の山が築かれていたそうです。そして途中で離れ離れになったもう1隻は、行方知れずのままとなっています。


漂流の途中、小さな島ヘンダーソン島に漂着した時に再び海に乗り出すことを拒絶した乗組員3名が島に残りました。彼らは後に、先に救出された乗組員ら5人の話を基に船がヘンダーソン島まで派遣され、最終的に救出されました。


この一連の出来事を地図上に表示したものが次図となります。


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いやはや、小説『白鯨』も凄いですが、その話の元となった事実もとんでもなくスゴイです!


なお、映画のラストシーンでも述べられますが、アメリカのペンシルバニア州西部で原油が発見され、最初の石油生産ブームが起きたのが1859年~1870年頃の話。その後アメリカ本土各地で原油が見つかり、20世紀初頭になってテキサス州で大油田が発見され、更には世界の各地で原油が生産されるようになり、これに呼応するように鯨油の価値は下がり、捕鯨産業は衰退の一途を辿ることになります。正にこのアメリカの経済が上昇の一途を駆け上った時代の潮流と時期を一にしたことが、メルビルの『白鯨』がアメリカ文学史上燦然たる記念碑的位置を占めたとも言えるのです。


既にご覧になられている方も多いかも知れませんが、迫力の予告編をちょっとご紹介します。







そして、こちらはクラシック音楽ブログですから、クジラにちなんだ音楽と言えば、やはりこの作品をご紹介しないわけには行かないでしょう。アメリカの作曲家アラン・ホヴァネス(Alan Hovhaness, 1911-2000)による「And God Created Great Whales」(管弦楽とクジラの録音テープによる、1970年作)。本物のクジラの鳴き声を聞くことが出来ます。なお、フィンランドの作曲家エイノユハニ・ラウタヴァーラ(Einojuhani Rautavaara, 1928-2016)が「Cantus Arcticus」の中で鳥の鳴き声のテープを作品の中で活用したのが1972年。自然界の動物の声などを音楽に取り入れることがちょっとしたブームとなった先駆けの作品でもあります。





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