一度踏み入ったら出口の全く見えない音楽の深い森。森の中を彷徨い歩く内に出会った神々と妖精たちのお話です。

アイルランドの風景(2)
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Kylemore Abbey


アイルランド屈指の景観を誇るコネマラ地方へは、ゴールウェイから西北西の方角にバス又は車で約2~3時間のドライブにより訪れることができます。その目玉の一つKylemore Abbeyは写真のように実に端麗な姿を静かな湖畔に映し、もし同国を訪問する機会がありましたなら、必見の場所と言えましょう。


ところでAbbeyとは、少し前までNHKで放映されていた英国TVドラマの「ダウントン・アビー」をご覧になっていましたらイメージが沸くかと思いますが、邦訳するなら(大)修道院とでも呼ぶべき大邸宅のことを指します。このお城は、元々19世紀後半のビクトリア朝時代である1867年に、イギリスの大富豪であり議員であったMitchell Henryが新婚旅行として愛妻Margaretと共に同地を訪れた際に、その静かな辺境の風景が大変印象に残ったため2人の住居として建築されたものでした。従って古城ではなく、むしろ建てられてから未だ150年しか経っておらず、中に足を踏み入れると今でも貴族たちが暮らしているような錯覚さえ覚えるほどリアル感があります。ビクトリア朝時代を代表する近代建築の傑作の一つです。


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正面玄関から見上げた館の雄姿。背景には直ぐ後ろに聳え立つゴツゴツとした裏山の岩肌が垣間見え、なかなか迫力があります。


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食堂のスナップ・ショット。どうですか、今にも貴族たちの一家が食事をしていて、傍らには執事が直立不動の姿勢で立ったまま主人の命を待っているような気がしませんか?




ところが幸せの日々は長くは続きません。1874年にMitchell一家はエジプト旅行に出かけるのですが、その時Margaretと愛娘の2人同時に熱病に罹り、あえなく帰らぬ人となってしまいました。


傷心のMitchellはやがてこの屋敷を手放すこととなり、紆余曲折を経て、1920年以降現在に至るまでベネディクト修道会が所有、管理することになりました。そして1923年から最終的に2010年に閉じるまで、この館はBenedictine Communityが運営母体となって全寮制の女学校となっていました。イギリス各地は言うに及ばず、ヨーロッパや遠くアジアからも生徒はやって来て(その中にはインドの王女もいたそうですし、また驚くことに日本からもいたのだそうです)、大変静かな環境の中で祈りを捧げつつ、音楽を含めて様々な学問を習得し、やがてそれぞれの世界に旅立って行きました。指導される先生方は無論、黒衣の修道尼の方々です。生徒たちが着用していた制服の一つが展示されていました。次の写真です。


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実は、当ブログ管理人は教会に附設された幼稚園を卒業しております。校長先生は白人の神父様で、各クラスの先生方も皆シスターでいらっしゃいました。このAbbeyには、当時の歴史を紹介するコーナーがあり、黒衣の裾が地面を擦るくらいに長いシスターらの写真などを拝見して、とても昔が懐かしく、興味深く見学させて頂きました。


Kylemore Abbeyとその庭園の歴史については、次のサイトに詳しく紹介されています。ご興味を覚えられた読者の方は、是非こちらをご参照下さい。


https://www.kylemoreabbey.com/


館から歩いて約30分程度の距離に庭園やチャペル(礼拝堂)などもあり、散策には絶好の風景が広がっています。


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邸宅前の湖です。遠方に小さくチャペルの塔が見えています。


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礼拝堂の反対方向に歩き出すと、別の湖が現れ、裸の岩山を背景としたこれまた美しい光景に驚きを隠せません。


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庭園には、綺麗な季節の花々や様々な薬草類などが育てられていました。女学校が既に閉鎖されていたことは極めて残念でしたが、修道会の活動自体は今でも持続しているようです。それにしても、この屋敷の周辺にはビジターらのためのセンター(売店)はあるものの、地元住民の集落などは全く無く、最初に此処に邸宅が建築されてから周囲に何も出来なかったのは不思議と言えば不思議です。私が訪れた春の終わりには最早降雪などは見られませんでしたが、一旦雨が降れば身体が凍えるような氷雨となり、ほとんど農作物の収穫不能なこうした寒冷の地では長い冬を越すこと自体が至難だったからかも知れません。そんな厳しい環境の中での女子教育とは一体どのようなものであったのか、もっと詳しく知りたいと思いました。




さて本日の音楽は、アイルランドの作曲家 Seóirse Bodley (1933-) の交響曲第2番「I Have Loved the Lands of Ireland」(1980年作)。Bodley氏はダブリン生まれで、生粋のアイルランド人。伝統的な作曲技法を踏襲しながらも、現代的な不協和音も随所に取り入れ、他のどの国でもないアイリッシュらしさに溢れる佳品だと思います。こうした作品の演奏には、Bryden Thomson氏の指揮がピッタリではないでしょうか。






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